前回までの「申請編」「開始編」では生活保護開始に伴うあれこれを書きました。今回はそれから半年以上経った現状について書きます。
せっかく稀有な体験をしているので、申請を検討している人はもちろん、行政担当者や政治家、その志望者などにとっても参考になる情報を発信できれば幸いです。
気になる収支のバランスは?
生活保護といえばご存じ「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障するための制度ですが、その最低限度とはいかほどなのか、これは体験してみないと分からない部分でした。我が家の家計簿は、単月では10万円近い黒字になることも10万円近い赤字になることもありイマイチ使っていい生活費の水準が分かりませんでしたが、半年以上経ってようやく平均的な収支状況が見えてきました。
結論から言って、我が家の家計は保護費だけで黒字であり、中の下ぐらいの生活を送るのに何一つ不自由はないと言って差し支えなさそうです。最初のうちは加減が分からず、単月で黒字が続いても安心できず、手作り弁当と水筒を持ち歩いたりお菓子を減らしたりしていました。しかし、半年以上経った今となっては、むしろ貯金の貯まりすぎによる保護の一時停止が起こりそうなほど収支に余裕があります。(貯金額が受給額の6ヶ月分相当に達すると一時的に保護費の支給が止まってしまいます。)
これは我が家が①子供が多い分受給額が高く、②お金のかかる趣味を持った人が大人にも子供にもおらず、③パートとはいえ働きたい日には働ける職場がある、という恵まれた事情によるものであり、全ての生活保護受給者が中の下ぐらいの生活を無難に営めているとは思いません。とはいえ、冷暖房も我慢して食事も抜いている…といった受給者は恐らくかなり少数派であり、「健康で文化的な最低限度の生活」は想像よりずっとストレスのない環境と思って良さそうです。
とはいえトラブルはあった ①水道トラブル
全体としては順風満帆なスタートを切れたと言って差し支えないものの、やや大きなトラブルはありましたので5つ書きます。
まずは水道トラブル。トイレを詰まらせてしまい、適当な業者を呼んだところ見積もりと大きく異なる200,000円の工事を提案されて戸惑いました。断って帰ってもらったものの、途中までの工事費52,800円は支払うこととしたので大きな損失でした。早い話がぼったくりよね…。その日は復旧を諦めて、翌日マンション提携の業者にお願いしたところ、あっさりタダで直してもらえました。これは痛い出費でした。
この事件が起きるまでは稼げない自分に対してやや焦っており、多少無理をしてでも仕事のシフトを減らさないように頑張っていたんですが…、それもぼったくりを防げなかった遠因になっていたことは否定できず、焦りは禁物だなと思い直しました。このたった一つのミスを取り返すために額面528,000円分(なぜ10倍かは後述)働かなければならないインセンティブ設計に何故かされている以上、生活保護受給者は仕事は副業、生活維持を本業として取り組まざるを得ないようです。
トラブル② 払いすぎ返金事件
次に収入認定の認識違いの問題です。そもそも生活保護には収入認定という仕組みがあり、受給者は貰ったお金、給付金等があった場合に福祉事務所に申告する義務があります。申告した額が収入として認定されると、原則として翌月の保護費から差し引かれます。したがって受給者は何かしらお金を受け取ったとき、それが収入認定されるものなのか、されないものなのかを敏感に区別します。
諸事情で不動産業者から我が家に対して121,467円の振り込みがあったのですが、これは色々な理由が混じった合算金額でした。このうち36,000円は払い過ぎた家賃の返金にあたるため収入認定されず、残額85,467円は収入認定されるものなのでそのように口頭申告したのですが、福祉事務所の誤認でこれが全額収入認定されてしまったので一生懸命取り返しました。
口頭でうまく伝わらなかった反省から要望書を書いて提出したところ、今度は正しく伝えることができ、この36,000円は数ヶ月後の保護費に加算される形で取り戻すことができました。良かった。
しかし、↑のような要望書を作って提出するのにはある程度の事務処理スキルが必要です。このようなケースで泣き寝入りしている生活保護受給者は多いのかもしれません。
トラブル③ お年玉はセーフ?
次に子供たちが貰ったお年玉について。ネットで調べたところお年玉は収入認定されてしまうらしいので子供たち4人が貰ったお年玉の合計額42,000円を収入申告したのですが、福祉事務所の判断でこれは収入認定されない(全額手元に残しておける)ことになりました。やったー!
個人的には嬉しい裁定でしたが、市区町村の福祉事務所には国の基準と異なる収入認定をする権限はないはずです。単にネットの情報が信用ならないだけなのか、区が誤った認定をしてしまったのか。来年以降も、一応報告はしようと思います。
トラブル④立替払いだったけど…
誰かが負担すべき金銭を代わりに支払って後からお金を受け取る、いわゆる立替払いについては、我が家では費用としても収入として申告していません。しかし、例外がありました。
それはお盆休みに遠方の妻の実家に行ってきたときのこと。先方の希望ということもあり交通費をおばあちゃんに出してもらったのですが、この切符を購入した時期は生活保護の受給前であり、代金を受け取ったのは受給後でした。
この場合はどちらかの申告をする義務があります。①生活保護開始に際しての資産申告のときに、この切符の評価額を資産として報告する。②代金の受取日をもって収入申告する。仮にどちらもしなくていいとしてしまうと、高額な航空券や観戦チケットなどを買い込んでから申請することも可能になってしまい、資産がある人も生活保護を受けることができてしまう為です。
どちらもしていなかったことに数ヶ月してから気付いたので慌てて報告し、担当ケースワーカーに相談したところ②の手続きを取ろうということになり、その翌月の保護費から切符代約75,000円を引いてもらいました。私の信念的に不正受給するのは絶対に嫌なので、この手のミスは気付いた時点で即報告です。他にないといいなぁ…。
トラブル⑤お金が出てきた!
我が家では災害用非常持出袋の中に食糧、批難グッズの他に現金47,000円を入れていたんですが、これをすっかり忘れていました。もちろん気付いた段階でこれも報告し、発見した日の収入と見做して47,000円を申告しました。厳密にいえば保存食も資産ですが、そこまで細かい申告は要求されませんでした。しかし、現金はね。
家計を維持するために必要な努力って…?
このようにたった半年と少しで数万円単位の臨時支出、臨時収入、申告ミスなどが合計5回も立て続けに起きたところをみると、どうやら生活保護で家計を維持するにはこういった数万円単位の損失を確実に防ぐことが最も大切なようです。
それに比べると、日々の節約や労働による収入は微々たるもの。何だかなあ…。
就労収入の仕組み
さて、ここは一般的な話。よく生活保護受給者は働けないと誤解されがちなんですが、実際には普通に働きながらでも受給できます。就労による収入は全額が収入認定されてしまうわけではなく、世帯主は月15,200円まで、それ以外の家族は月15,000円までの収入(額面ではなく、手取りまたは利益)は認定されず手元に残すことができますので、僅かでも働くことが家計維持の為には重要です。しかし、それを超えた分は世帯主は月19,000円を超えた分の10%、それ以外の家族は月43,000円を超えた分の8.5%しか手元に残せず、残額が収入認定されて翌月の保護費から引かれてしまいます。私は世帯主ですが10%しか手元に残せないので、私にとって1,000円稼ぐのと100円節約するのでは家計に与える影響が同じということになります。これは経済をシュリンクさせる方向に働くインセンティブ設計ですので、20%ぐらい手元に残せたらなあ…と思うんですが、それ以上となると制度の趣旨と合致しなくなるので慎重に設計されてるんだろうと想像します。
制度設計の疑問点
この計算の中で最も解せないのは、世帯主以外の家族が月15,000円~43,000円の間で働いても、その分を一切手元に残せないことです。これは単純に設計ミス、ないし悪法ではないでしょうか?これは働く意欲を根こそぎ奪うような制度は、一体どういう意図で制定されたんでしょう。
それ以前に、世帯主とそれ以外の家族で差を付けていることにも違和感しかありません。これは同一労働同一賃金の原則に反しており、男女賃金格差を広げる要因にもなり、世帯主以外の就労は促進しないという差別的な制度に他ならないでしょう。これは直ちに改めて、世帯全体の収入額に応じた収入認定の仕組みに変更すべきでしょう。
我が家の今後は
さて、謎設計によりなぜか妻は働けない、子供はバイトできないという制度になっている以上、上の子供が高校生になる8年後までに生活保護脱出を目指すことが、我が家の当面の目標となります。私はどうするかというと、あと数年は育児を優先したいので、キャリア形成?だの資格取得だのに本気で取り組める環境は作れないでしょう。40過ぎてからの就職はあまり考えておらず、育児関連での起業か、地域活動か「千代田タバコ問題を考える会」の活動からもう一度区議を目指すのもいいかもしれません。しかしそれも具体策は無し。妻は大物漫画家になってたらいいな~。と思いますがうまい売り方は思いつかず。そもそも8年後までに脱出したいとはいっても、今より低い生活環境に家族を追いやるぐらいなら娘にバイトを諦めてもらう方がマシとも思っています。無理はせず心身の健康第一で取り組むしかないでしょう。幸い、ゆっくり考える時間はあるようです。
仕事のせいで生きづらい人に告ぐ!!
最後に、本当にこれだけは言いたいんですが、みんな本当に仕事で無理しないでね、絶対。我が家の4人の子供はみんな素敵な笑顔で兄弟同士遊んだり、友達と遊んだりしています。お腹いっぱい食べてるし、よく遊びよく学んでいます。仕事を辞めると家族が路頭に迷う、なんて幻想です。資産が尽きるまでの生活は何も変わらず、その後は中の下くらいの生活水準に落ちるだけ。旅行やお金のかかる趣味は相当頻度を落とさないといけなくなりますが、まあ死ぬことはありません。だから辞めてから次を探せば大丈夫です。
特にブラック企業で過労死する人や違法な事業やって逮捕される社長さん、本当に滑稽なので、そうなる前に辞めた方がいいです。社員も家族も誰も死なないしホームレスになったりもしないので。
生活保護は働けない人の終着点としても機能している一方、再起を目指す人のためのモラトリアムとしての受け皿も担っています。天国ではないけど地獄でもなく、きっと拍子抜けするぐらい普通の生活が待っています。
本当に絶対無理しないでね。福祉はあなたの味方です。
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