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執筆者の写真梅田夏希

喫煙所は路上喫煙を減らしているのか、他7本



 こんにちは、梅田夏希です。

 久々のブログ更新は私のメインテーマであるタバコ対策の話です。タバコそのものや法制度、受動喫煙対策についての豆知識を8個書きました。長いので、見出しと太字だけざっくり読んで興味のある項目だけ全文読むとちょうどいいと思います。きっかけは以下のX投稿とそのリプ・引用を目にしたことから。


『【9月議会一般質問】

(中略)

●約70億円のタバコ税をいただいていることについて

・受動喫煙とポイ捨てを減らすために喫煙所の設置を要望』


 忖度議員がよくやりがちな一般質問ではあるものの、私はこの質問を好ましく思います。これが受動喫煙対策に直接繋がるとは思いませんが、やってるだけ何もしない議員より100倍マシでしょう。喫煙所の設置が必ずしも受動喫煙対策にならないこと(後述)なんて普通は気付かないものですし、たばこ税に対して配慮すべきという勘違い(後述)も良くある話。岳田議員が特別に悪いわけではありませんし、これしきでタバコ業界への忖度だと決めつけるのも早計です。やらない善よりやる偽善。あとは、意欲あるこの議員さんに知恵ある者たちが力を貸してあげて、次は100点の一般質問を目指せばいいじゃあないですか!


 しかし、XというSNSに蔓延る“禁煙界隈”の反応は過激でした。至らない要望に対して「そんなんじゃ受動喫煙対策になりません。なぜなら…」という意見表明や情報提供をするなら何も問題はありませんでしたが、「JTの手先に違いない」「ヤニカス議員め」といった酷い投稿が目立ちました。こんなんじゃ並の人間なら委縮して、「もう難しいから分かってる人だけに任せよう…。」と喫煙所の議論から手を引いてしまいかねません。したがって、私はこのような素人叩きは害悪だと思います。むしろ、志ある新人議員のやる気を奪うあなたがたの方こそJTの手先では?と思うほど(それはないか)。そんな投稿にも根気強く相手をしている岳田議員は凄い人だなぁと思います。投稿から2週間経った10月13日現在、まだやりとりが続いています。いやあ、凄い。


 とはいえ、言い方は酷くとも彼らの言ってるタバコ知識、受動喫煙対策のやり方は普通に正しい内容も含んでおり、よく勉強されていることが伝わります。知識も考察も出来ているので、あとは伝え方さえ身に付ければ即戦力になってくれそうです。あとは伝え方さえ身に付ければ。「議員なら勉強してから語れよ」「不勉強だ」「そんなことも知らないのか」じゃなくって!!相手が無知だと感じたら、勉強に協力してあげるのが知識ある人の役目ではないでしょうか。せっかく勉強したんだから、JTを利するためでなく受動喫煙のない社会を実現するために活かしてください。



岳田議員について

 

 さて、どんな方なのかと興味を持って少しだけ調べてみました。2歳の頃から長年千葉市に住んでいる34歳(2023年10月現在)で、大学在学中から参議院議員秘書を務められたのち、つい半年前の2023年4月に初当選されて千葉市議会議員を務めておられます。選挙区は都賀駅などを擁する若葉区、所属は自民党です。自民党というとJTからお金を貰ったり、地元のタバコ屋さん達から票や人脈を貰っている忖度政治家が残念ながら目につきます。現在のところそうした献金は受けていない岳田議員も、将来そうなってしまう可能性は十分あるので、我々や有権者が注視し、継続的に応援して、そうならないように未然に防ぐことが必要だと思います。上述ツイートからのやり取りを見るに、きっと他の分野でも意見の違う人とも真剣に議論して真摯に市民の為の政策を練っているんだろうなと推測します。今後の活躍に期待が出来そうです!



各論 ~タバコ対策の前提となる、正しい認識とは?~

 

 さて、ここからが本題です。無礼な“禁煙界隈”はなぜああも岳田さんを叩いたのか?タバコ対策に詳しくない人にはさっぱり見当が付かないと思います。以下に、一般にあまり知られていないかもしれないタバコの知識や、受動喫煙対策の方法を各論で書いていきます。



①喫煙所は路上喫煙を減らしているのか。

⇒長期的にはほぼ効果なし。ただし、短期的には効果がある場合もある。


 これは多くの人が驚くと思います。「私の家の近くでは喫煙所が出来てから路上喫煙減ったよ!」という方も多いと思います。確かに、そういう場所もあります。しかし、そもそも喫煙所の構造や容量に問題があり受動喫煙を防げていない場所や、喫煙所があってもなお路上喫煙が多い場所がいくらでもあります(新宿駅西口、中野駅北口、錦糸町駅南口、上野駅、高田馬場駅早稲田口、渋谷スクランブル交差点、表参道、赤羽駅、王子駅北口など)。逆に喫煙所がないのに路上喫煙が滅多にみられない場所もあります(飯田橋駅、半蔵門駅、調布駅など)。

 したがって路上喫煙の発生数が単に喫煙所の有無や数で決まるものでないことは明らかです。他の要素として、喫煙者の通行量、取締の強さ、案内板の有無、路上の美化度合い、啓発度合い、道の見通し、加熱式の普及率などが路上喫煙の発生数に影響することは想像に難くありません。現状、これら他の要素と分離して喫煙所のみの効果を計測することはほぼ不可能でしょう。唯一、一定期間喫煙所の運用を止めてみて周辺の路上喫煙率の変化を見るのが低予算かつ正確な計測方法として思いつきますが、効果測定の為だけに止めるのは現実的ではありません。結局、正確な計測は出来ないということです。

 税金や土地の効率運用を考えれば、効果のある喫煙所だけを運営して残りを廃止すべきところ、正確な効果測定は出来ないので場所ごと場面ごとによく観察して決めるしかないでしょう。

 ここまでは全て短期の影響の話です。長期的には、残念ながら受動喫煙防止効果はないと考える方が自然でしょう。なぜなら、喫煙所には喫煙したい気持ちがほどほどの人まで誘い込んで1本吸わせる効果と、禁煙の意志を挫く効果があるからです。喫煙所は、場所や場合によっては有効な受動喫煙対策になる可能性があるものの、禁煙支援には明確に有害です。一部の禁煙運動家が喫煙所増設に激しく反対するのは、主としてこちらの効果を批難してのことです。全体の喫煙率を上げてしまう以上、増えた喫煙者が、他の場所でも喫煙ルールを必ず守ると期待するのは無理があります。


じゃあ、どうすればいいのか。

 これは、地域ごとに判断するほかないでしょう。喫煙所をいたずらに増やすのも、いたずらに減らすのも、どちらも適切ではないと思います。多くの喫煙所を観察した私見として、周辺に喫煙所が一つもなく、かつ路上喫煙者が極めて多い場所に喫煙所を設置するのは、おそらく受動喫煙防止に効果があります。ただし、既に喫煙所がある場所の近くに2ヶ所目を増設する意味はほとんどないでしょう。例えば、北口に十分広い喫煙所があるが南口だけ路上喫煙がひどい場合、南口には喫煙所を新設するよりも、北口に誘導する案内板を設置する方が遥かに費用対効果が高いと思われます。なぜなら、5分程度歩けば辿り着く範囲内に喫煙所があっても使えない人は、ほぼ例外なくニコチン依存症の精神病患者だからです。その場所以外でも日常的に路上喫煙している人ですから、その場所だけの路上喫煙を減らしても根本的解決になりません



②喫煙の「権利」はあるのか?喫煙は法律で認められているはずでは?

⇒権利はなく、特段認められてもいない。


 これも一般の人には驚かれるでしょう。タバコは禁止されていないだけであって、法律で特段認められているものではありません。実は、それどころか幸福追求権の一部としての喫煙権の存在を否定する判例さえあります。その反面、他人から受動喫煙を受けない権利は法律で認められており、判例上も確立されています。吸う自由と、吸わない権利は元から対等ではありません。

 現状の法律構成上、吸う権利はそもそも規定されていないため、例えどれだけ理不尽な理由であっても他人にタバコを吸わないように要求する行為は一切権利侵害に当たりません。例えば自分の会社の社員にいきなり明日から禁煙を命じたとしても合法です(ただし、普通は移行期間を設け経費で禁煙支援を行います。違反者に過剰に重い懲戒を課せば労働法上問題になるからできないし、従業員から恨まれるような業務命令は合法であっても避けるべきでしょう)。

 現状の法律構成上、吸わない権利は規定されているため、被害者が権利侵害を主張してきたら、喫煙者、または喫煙所の管理者はちゃんと反証できない限り責任を取らされます


じゃあ、どうすればいいのか。

 現行法上は簡単なことで、他人の吸わない権利を侵害しない範囲内で吸う自由は無制限にありますから、その範囲内で自由を謳歌すればいいと思います。あなたが喫煙者、もしくは喫煙所の管理者で、「臭いよ」「○○では吸わないで」「吸った後は○○して」などと言われた経験があるなら、他人の権利を侵害している可能性に鑑み、可能な限りそれらの要求を呑む努力をすれば良いだけでしょう。一方、他人の吸わない権利を侵害していないと確信が持てるなら、しっかりその旨を主張しましょう。

 喫煙者は肺がん以外の疾患を知らないこと(後述)からか、他人に多少の受動喫煙を生じさせる行為は許されるものだと勘違いしがちです。配慮しているつもりでもそもそも嗅覚が鈍っていることで配慮は不足しがちですので、具体的かつ現実的な要求を受けたときには、原則として受け入れた方が良いでしょう。

 一方の弱煙者は、受動喫煙被害を受けていると認識したらその被害をできるだけ客観的に把握するよう努め、具体的かつ現実的な要求を添えて喫煙者または喫煙所の管理者に表明しましょう。権利が保障されているとはいえ、それを主張するのは結構手間がかかるものです。しかし、泣き寝入りする必要もありません。



③たばこ税をどう捉えればいいのか。

⇒タバコそのものと完全に分けて考えるのが良い。


 たばこ税を有難がるあまり、何故か、タバコそのものまで有難がってしまう新人地方議員は自民党に限らず数多くいます。これもよくある勘違いであって、彼らを責めても仕方がありません。たばこ税は、現代ではタバコによる経済損失の一部を補填するものとして機能していると言えます。明文上そう規定されることは無いでしょうけど、多くの人が「タバコは嫌いだけど、税金納めてくれてるし」なんて言いますし、喫煙者も「税金払ってるんだからこれぐらいは」なんてよく言うことから、少なくとも心理的には経済損失の補填を成しているといえます。たばこ税収の金額の分だけ、どこかでは経済損失が発生し、泣いている誰かがいることに思いを馳せなければなりません。仮にたばこ税を特別会計化したら、対応する支出は医療費、経済損失に伴う減収分、被害者救済でほぼ使い尽くされ、まともな喫煙所整備は出来ないでしょう。タバコは百害あって一利なし(後述)で、行政にとって全く有り難くないものです。

 とはいえ、一般財源のお金に色なんか付いていないので、税収は有難く使って市民サービスに活かせばいいと思います。税収そのものを有難がることには何の問題もありません。たばこ税は一般財源として様々な住民サービスに活かせるため行政にとって有難いものです。


じゃあ、どうすればいいのか。

 ここは単純に、たばこ税とタバコを完全に切り離して考えるべきです。直接地方の税収として認められている税法の体系にこそ感謝すべきで、タバコに感謝するのは間違ってもやめましょう。一時期「タバコは○○市で買いましょう」と書かれたライターが出回っていましたが、ああいう愚策の時代に戻してはなりません。目先の税収が増えたとしても、その分経済損失も増えるからです。

 タバコによる経済損失を増やさずにたばこ税だけを増収する方法は存在します。それはたばこ税の値上げと地方への分配率向上です。それでは喫煙者の財布が痛む、国家財政に影響が出る、と言われるでしょうが、税収を有難がるとはそもそもそういうことです。お金が湧いて出てくることはありません。どこかから取るしかないのを、受動喫煙被害者から(医療費等の形で間接的に)むしり取るのは最も非人道的な選択肢であると言えます。

 ちなみにこれを書いている梅田は「減税とうきょう」という政治団体に属していたこともあるほどの生粋の(?)減税派であり、たばこ税の値上げには反対です。先に喫煙率低下の為の他の政策を試行し、それでも下がらない場合のみ増税を容認する立場です。



④喫煙者と非喫煙者の「共存」は可能か?

⇒人による。


 タバコ問題に詳しくないと、あたかも「喫煙者」と「非喫煙者」という2種類の属性の人間が存在するように錯覚してしまいがちですが、雑すぎます。少なくとも4種類に分けて考えないと、有効な受動喫煙対策は打てません。


A.ルールを守れない喫煙者

B.ルールを守れる喫煙者

C.多少は副流煙を我慢できる非喫煙者

D.副流煙により具体的な健康被害を受ける非喫煙者


 このうちBCの共存は、現行法で十分可能です。いま問題なのはADで、どちらも病気なんですが、BCより人口が少ないためか為政者から無視されがちです。というか、「共存」を声高に推し進めるJTなどの勢力はADを意図的に無視している疑いすらありますので彼らの声ばかり聞いていると政策を誤ります。

 現代の受動喫煙対策は、ADにいかにして普通に生活してもらうかを考えなければなりません。Aに対する治療法はある程度確立しているので、医療アクセスを易化することである程度解消できます。Dに対する治療法はまだ確立していないので、バリアフリーの観点から受動喫煙対策を考える必要があります。4種類でもまだ雑過ぎるぐらいで、実際にはABの間の人、CDを行ったり来たりする人も多いです。


 そもそもの話として、仮に喫煙所が出来て、それにより周辺の路上喫煙を60%程度減らしたとします。喜ぶのは誰なんでしょうか?

(いらすとやの画像から梅田作成)


A(ルールを守れない喫煙者)は、そもそも喫煙所を探さないので、喫煙所が増えても利便性は向上しません。 ⇒×

B(ルールを守れる喫煙者)は利便性が向上し、短期的には喜びます。ただし、いずれ禁煙しようとした時には、いつもこの喫煙所に寄っていた習慣が足を引っ張ることになります。 ⇒○

C(多少は副流煙を我慢できる非喫煙者)は手放しに喜びます。 ⇒◎

D(副流煙により具体的な健康被害を受ける非喫煙者)は少しの受動喫煙でも避けたいのに、車いす利用者にとってのスロープのような、安心して通れる道が確保されていません。 ⇒△


 つまり、喫煙所の増設は対策しなければならないはずのADにとっては僅かなメリットしかなく、既に十分共存可能であるBCに多大なメリットがあることになります。Dの代表という訳ではありませんが私の意見としては、受動喫煙に全く遭わずに目的地にたどり着けるルートが1ヶ所あれば、他の道がどんなに路上喫煙だらけで煙たくても構いません。それが確保されておらず、確保される見通しもない現状をどうにか打破したい考えです。


 冒頭のツイートからのやり取りを見ると、岳田議員にはDの存在が、"禁煙界隈"にはCの存在があまり見えておらず、この不一致がそもそも会話が噛み合っていない原因かなと思われます。


じゃあ、どうすればいいのか。

 現状全く足りていないA向けとD向けの対策をもっと何とかしなければ、タバコ問題は終わりません。BC向けに喜ばれるタバコ対策も継続することは構いませんが、もう重きを置く必要はないでしょう。



⑤喫煙で仕事の効率が上がるのか?

⇒場合によるが、ほとんどないと考えた方が良い。


 これも一般に知られていないと思いますが、喫煙によりリラックスできる、集中力が上がると感じるのは錯覚に過ぎないことが既に分かっています。正体はニコチン切れによる集中力の低下と不安症状で、これが喫煙により取り除かれ、喫煙直後は普通の状態に戻っているだけのようです(この動画が詳しい)。そのため、長時間の集中を要する仕事とタバコとの相性はとても悪いと言えます。反面、ごく短時間の集中作業とほとんどの時間の取るに足らない作業を定期的に繰り返す仕事をしているのであれば、喫煙による悪影響はそれほど心配しなくて良いでしょう。

 また、喫煙所コミュニティに入れることを喫煙のメリットとして挙げる人もいますが、これも厳密には誤りです。非喫煙者が喫煙所に入ってはいけないというルールはほとんどの喫煙所にないからです。缶コーヒーか、依存性のないvapeを持って喫煙所に出入りする方が健康、出費、時間効率の全てにおいて優れています。タバコは文字通り、物理的、物質的には百害あって一利なしです。

 とはいえ、パズルやゲームをしたとき「楽しい」と感じるように、物理的、物質的に何の作用もない行動に喜びを感じること自体には、何の問題もありません。もしもあなたがタバコに火を付ける行動そのもの、あるいは集中力が低下して元に戻る現象を「楽しい」と感じているなら、それは喫煙の唯一のメリットと捉えて良いでしょう。



⑥そもそも喫煙の害って?

⇒がん、心臓病、脳卒中により年間8~12万人の死者を出している。


 2018年に東京都多摩市が行ったアンケートによると、なぜか当事者である喫煙者の方が、肺がん以外の喫煙由来疾患に詳しくないという結果が出ています。喫煙者の平均寿命が8年短いと聞いて「じゃあ俺は79歳ぐらいで死ぬのかな。」なんて漠然とイメージしている人が多いのでしょう。これは「平均」の意味を誤認した全くの誤りです。イメージ通り肺がんなどで平均寿命より8年前後早く亡くなる喫煙者も存在しますが、実際には、喫煙由来の病気を一生患わない喫煙者がたくさん存在します。その分、心臓病、脳卒中により若くして突然亡くなってしまう喫煙者がたくさん存在するため、その平均が8年ということです。みんなが8年短く生きるのではなく、0年かもしれず、16年かもしれないロシアンルーレットです。

 岳田市議は若いころに心筋炎を患っておられる上に日常的に激しい運動もされているようなので、肺以上に心臓関連の疾患リスクが高くなっていると思われます。喫煙を続けるなら、がんなどの進行が遅い病気に罹りやすくなる自覚はもちろん継続しつつ、心臓発作などで突然死んでしまうケースも想定して覚悟しておかなければならないでしょう。ツイートから察するに、その想定はされていないものと思いますがいかがでしょうか。せっかくお若いので、出来れば10年後も20年後も有権者の期待に答え続けていてほしいと私は願います。



⑦海浜幕張駅の喫煙所は効果があったのか。

⇒多少はあったと思われるが、調査不足のため不明

 この資料↑を見て「喫煙所は周辺の路上喫煙を57.2%も減らしている!」と結論付けてしまうあなたは、残念ながら普段からデータやあらゆる統計を読めていない可能性が極めて高いです。

 ちょうど、喫煙率低下と肺がん患者上昇のグラフを見て「タバコは肺がんを防いでいる」とか、医者の多い地域で病院受診数が多いのを見て「医者が病気を生み出している」と結論付けてしまう人と同レベルです。

 どういうことなのか、簡単に解説します。言われれば分かると思うんですが、路上喫煙を増減させる要素は、喫煙所以外にもたくさんあります。複数の要素から成り立っている以上、他の要素による影響を引いた残りが喫煙所の影響となります。ところが、上の調査にはこの分解作業(回帰分析といいます)を経た形跡がなく、従って「検証結果」の一段目にも「~と考えられる。」とある通り、この調査からは喫煙所の効果を測ることはできません。これを勝手な解釈により喫煙所に効果があったと解釈することも、逆に喫煙所に効果は無かったと解釈することも、どちらも不適切です。この調査だけで喫煙所の効果は何も分からないが正解です。

 とはいえ過料件数(≠違反件数)が減ることは喜ばしいことです。それが分かっただけでも、この調査に意義はあったと思います。


じゃあ、どうすればいいのか。

 ある程度の調査を追加することで、2通りの方法で喫煙所の効果のみを推定することが出来ます。1つは同じ期間の別の場所との比較です。同じ条件の場所など存在しないとはいえ、同じ頃に喫煙所を新設した場所を2ヶ所以上、新設していない場所を2ヶ所以上選定して過料件数の変化を比較することで、ある程度の精度で喫煙所の効果を推定することが出来ます。ただし、この方法では個々の喫煙所の効果は分かりません。

 もう1つは回帰分析です。喫煙所新設以外の他の要素による影響を可能な限り排除し、残りを喫煙所の影響と推定する方法です。少なくとも、コロナ影響により海浜幕張駅の定期外乗車人員が急激に低下(平成30年30,851人→令和元年29,956人→令和2年11,946人)した時期と重なっていることは考慮しなければなりません。検証結果の三段目に「(過料対象者の)約69%の者が喫煙所の存在を知らなかった」とあることから、定期券で利用する人よりも、非定期利用者の増減による影響の方が遥かに大きいと推測できます。次に、喫煙率、とりわけ紙巻きたばこユーザーの減少率を考慮する必要があります。喫煙率が減れば路上喫煙率も減ると推測できます。(さらに欲を言えば、違反者の補足率の変化も加味して、過料件数を元に違反件数を推測した方がいいでしょう。取り締まる方からすれば路上喫煙者が多すぎると捕捉は難しくなるのであり、過料件数から違反件数を推測できるとは限りません。警備員の出勤人数や出勤時間帯なども考慮して捕捉率を推定できるでしょう。また、路上喫煙でなく受動喫煙を防ぐことが目的であるはずなので、紙巻きと加熱式の件数は分けて把握したいものです。)

 複数場所の調査か回帰分析か、少なくともどちらかの調査を追加で行わない限り喫煙所の効果は測れません。

 ちょうど先週、私の3歳の息子がりんごジュースを飲んだ直後に高熱を出してしまい、「ジュースのせいで風邪になった」と主張していました(可愛かった)。目の前に起きている2つの減少を見てそこに因果関係があると思い込んでしまうのは、本当によくある勘違いです。



⑧結論として、行政が喫煙所に税金を出す必要はあるのか?

⇒場合による。


 特定の場所の路上喫煙対策に最も有効なのは監視員の固定配置で、路上喫煙をほぼ0にできます。その次は過料を科すなどの厳罰化でしょうか。あるいは「ここで喫煙はやめてください」という音声を流すのもかなり有効ですし、子供の描いた絵を掲示する、近隣の喫煙所への地図を掲示するのも一定の効果があるようです。日々行政や地権者の皆様が、様々な手段で違法喫煙に対抗しておられます。日々の努力に本当に頭が下がります。そうした選択肢の一つとして、喫煙所の設置も当然検討されて然るべきです。

 しかし、どの選択肢にも短所があります。監視員の固定配置は予算がかかりすぎ、他の方法は路上喫煙を減らせるものの0にはできないためバリアフリー目線でのD対策に到底足りません。喫煙所の設置は短所が多すぎます(維持費が高い、景観に悪い、それ自体が副流煙の発生源となる、ひどい喫煙者はそもそも喫煙所を探さない、喫煙所の関連企業にお金が流れる、JTにとっての販促になる、禁煙の意志を挫く)。これらの短所に気付かずに設置してしまうと大変な無駄遣いに繋がりますが、短所を踏まえてなお設置すべきと判断された場合に限っては、ためらわず税金での設置を提案しても良いでしょう。あるいは、短所に対策を施し、喫煙所の長所だけを活かす方法も良いでしょう(維持費を抑えるかスポンサーを見つけ、景観に配慮したデザインとし、密閉化するか容易に避けて通れる場所に設置し、案内板など探しやすい工夫を施し、禁煙啓発ポスターを貼る)。

 したがって、基本的には他の手段を優先すべきと思いますが、短所を把握した上で(できれば対策もしたうえで)喫煙所を設置することは、選択肢の一つとして決して悪いこととは思いません。



おわりに

 

 以下はXのフォロワーさんが提供してくれた「喫煙場所の減少 あなたは賛成? 反対?」という記事ですが、反対の理由はほぼ全件がタバコ問題について何らかの誤認を含んでいます。ここまで読んだ方なら分かりますでしょうか?

 このような誤解は、知識ある我々が少しずつでも啓発し、解消していかなければいけません。


 さて、指が動くままに書き連ねたらずいぶん長くなってしまいました。知らなかったこと、信じられないことはありましたでしょうか。これは凄く大事なことなんですが、この記事の内容にあなたの知識や直感と異なる部分があった場合には、決して鵜呑みにせずに反証を試みてください。もし確たる証拠を添えて反証ができたら、それを私に教えてください。そうやってお互いの知識がアップデートされていくことを嬉しく、楽しく思います。

 ここまで読んでくれた人はタバコ問題について相当関心の高い方だとお見受けします。Xで行われていたような罵倒合戦でなく「議論」を通じて、既得権益の為でなくみんなの健康と自由を守るため、タバコとの付き合い方や、受動喫煙対策の在り方を一緒に模索していきましょう。今後ともよろしくお願いいたします。


梅田夏希

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